保育の「環境」ってなんだろう
皆さんは子どもたちが過ごす幼稚園の「環境」と聞かれるとどのようなことを想像されますか?
「施設がきれい」
「夏は涼しく、冬は暖かい施設」
「自然がいっぱい」
「部屋がきれいに掃除されている」 など、色々なことを想起されることと思います。
私たち保育者にとって「環境」という言葉は、保育を日々行っていく中で最も大切にしたいことのひとつというくらい重要なものと位置付けています。
国が示している「幼稚園教育要領」というものの中には幼児教育の5つの領域が示されています。
「健康」・「人間関係」・「環境」・「言葉」・「表現」の5領域です。
この5領域の中に環境が含まれているのです。
幼児教育は「環境を通して行う教育」と言われることがあります。
環境に刺激を受けること、遊びを通して学ぶこと、このようなことが現在の幼児教育の中で求められていることです。
「子どもにとって良い環境とは」ということに対するイメージとして、よく「きれいで整然とととっている保育室環境?」ということを想像される方がいるとを聞きますが、実はそうではありません。
私たちが考える環境とは挙げればきりがありませんが特に下記のようなことが「子どもにとって良い環境」と考えています。
☆子どもの「やりたい」があふれ、それを挑戦できる環境
☆自分で試行錯誤し、生み出そうとすることができる環境
☆単発の遊びだけではなく、継続して遊びこみができるような環境
☆「遊び」を通して子ども同士がつながり、思いを伝え合い、ともに作り上げていく環境
☆決められた遊び方だけではなく、自分で面白さに気づき、深化(進化)させることができる環境
☆子どもならではの感覚や表現が発揮できる環境
などです。
子どもたちが毎日、
「決められたおもちゃで決められた遊び方をしている」
「そもそも自由に遊ぶ時間がなく大人が設定した保育計画に沿って動く」
「遊ぶ素材が少なく、何で遊んでいいかわからない。自分のしたい遊びを行う場所や機会がない」
等の環境下で過ごしたとしたら、おそらく子どもたちは
「指示を受けないと動かない」
「~していいですか?と許可を都度大人にとる」
「既存のものの使い方はわかるが困難な場面に直面した時に工夫や試行錯誤して乗り越えることができない」
といった育ちとなってしまうと考えられます。
しかしながらこの「環境」を「構成する」いわゆる「環境構成」という保育の営みは、大変高度なスキルが必要な作業となります。
一年間、継続して同じおもちゃや素材を何となく保育室に置いておくだけなら、難しさなどは特にありません。
書店に並んでいる保育雑誌を読みながら参考にさせていただけば何となくの環境は作ることができます。
しかし、前述したような「私たちが考える環境」を作るためには、
「子どもの想いやつぶやきをキャッチし、保育者がどんな子どもに育って欲しいか」
「どんな経験を子どもたちにしてほしいか」
「この遊びが発展するとどんなことにつながるのか」
など、多面的な視野で環境構成をすることが大切になってきます。
これは決して書店に並んでいる保育雑誌を眺め、「なんとなく環境構成をしました」では達成できないことです。
当園では約7年前より、この「環境構成」を考えるうえでアメリカで作られた「保育環境評価スケール」という保育環境を評価するシステムの考え方を参考に環境構成を行ってきました。
日本では同志社女子大学の埋橋玲子先生が「保育環境評価スケール」の翻訳をされ、日本版として活用できるようになっています。当園の教頭もこの「保育環境評価スケール」(以下スケール)の評価者のトレーニングを受け、このトレーニングチームの活動に参加しています。
このスケールは他国では「保育の質を図るツール」として質を図る国レベルの調査で活用している国もある評価ツールとなっていますが、当園ではまずは「環境構成を考える参考書」という位置づけからスタートし教職員の学びに生かしています。
この「スケール」では例えば以下のような環境構成の観点があります。いくつか例を紹介します。
☆特定の活用専用の家具があるか
☆子どものための多くの展示が保育室全体にあるか
☆子どもが手に取れる本は15冊以上あるか
☆難易度の異なる遊具/教材があるか
☆量も種類も多いごっこ遊びのための遊具/教材があるか
などです。このようなチェック項目が数百とあり、全体としては35項目の観点で評価点がつく仕組みとなっており、調査活動などではその点数をもとに評価をしていきます。
このように保育環境を考えるうえで参考となる考え方をもとに保育環境を考えています。
現在、当園の保育室は各保育室とも様々なコーナーがあり、その一つ一つがそのクラスの興味関心をもとにして保育者と子どもとのかかわりの中で生まれたもの、保育者のねらいや願いが反映されてできたものとなっています。
5歳児クラスは現在、各クラスがテーマに基づいてコーナー遊びが展開され、それらが発表会の劇遊びにつながるなど、1日1日で遊びが終了するのではなく、プロジェクトとして長期にわたる遊びの展開が発生しています。
長期にわたることで工夫が生まれます。
新たな目標やチャレンジに向けて取り組もうとする思いが芽生えます。
長期で取り組んだことが次の関心ごとにつながり、遊びや学びが連続して展開されます。
このようなことを私たちは「遊びの継続性」と呼んでいますが、継続するからこそ思考が生まれ、工夫が生まれ、変化が生まれます。
保育室内はいろいろなものであふれ、決して「きれいで整然としている保育室」にはなりません。
もちろん衛生環境などには配慮が必要ですが、「部屋が整然と整っていることがよい保育室環境」ということではないことはお読みいただいて何となくお分かりいただけたかと思います。
子どもたちの発想を形にするためには、素材や場所そして時間が必要です。
このようなことをかなえていく為に私たちはコーナーを作り遊び込めるように、そして自由な遊びが展開できるように時間を確保したりしています。これが当園が自由な遊びの時間を大切にしている理由の一つでもあります。
このような環境構成を行ってから感じることは、
「ないものは自分で生み出そうとする思考・姿勢ができてきたこと」
「子ども同士でアイデアや考え方を共有しようと話し合う姿が多くみられるようになったこと」
「指示を受けなくても黙々と自分の想いを形にしようと遊びこんでいること」
このような姿が多くみられるようになりました。
「決められたことを繰り返し正確に行う力」から、「自分で考え判断し主体的に行動していく力」が大切にされる時代となってきました。(もちろん正確にこなす力がいらないわけではありませんが後者が重視されてきている側面があります)
この幼児教育の中で展開される子どもの遊びひとつにしても、それを支える「環境構成」にしてもこれからの幼児教育では大変重要な事柄となってきます。
これからも「子どもたちにとって良い環境」を教職員で語り合いながら、そしてその考え方を保護者の皆さんと共有しながら進んでいきたいと思います。